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まだ残暑が厳しかった頃の話である。この日、朝からスマホを忘れて外出してしまった。さらに、夏は暑いので腕時計をしないものだから、スマホも時計も持たずに川口へ降り立った。リリア音楽ホールの座席に着きしばらくして、あれ?今日は忘れ物をしてむしろよかったのかもしれない、と思った。バッハのロ短調ミサ曲という特別な音楽に気持ちを備え、鑑賞に集中し、余韻を楽しむには、スマホや時計などいらなかったのだ。ホールの空間に身体を馴染ませながら、自分の周りを流れる時間が、少しだけバッハの時代に近付いたような気さえした。
TCS(東京クラシカルシンガーズ)+OPT(オーケストラ・オン・ピリオド・トウキョウ)の演奏会を聴くのは、2010年10月の第10回演奏会以来。10回毎の記念演奏会だけ拝聴するイイトコドリのファンみたいだけれど、アマチュアでここまで当時の語法や楽器仕様にこだわって優れた演奏を実現している団体を自分は他に知らない。 この日のOPTは、技巧の点でもガット弦やオリジナル管の調整の練度の点でも、パートにより多少のバラツキを否めなかった。ただ、全体としては楽器の滋味ある魅力を存分に発揮して、ベクトルの合致した伝わる演奏をされていて強く惹かれた。優秀なTp&Timpそして通奏低音の存在が、やはりこういう音楽では効いていた。 また、8年前に比べて合唱のクオリティが随分高まった印象を持った。特に後半は発音の足並みが揃い、声が束となって累乗的に厚みと表現の深さを増した。無信教で聖書の断片しか知らない自分であっても、学生時代にCD付属の解説書を読んで何となく覚えている対訳を思い出すにつけ、音楽と言葉が胸に刺さる。中でもやはり、SanctusからDona nobis pacemに至る作品のクライマックスは、卑俗な文章などに落としてはいけない至高の音楽であることを再認識した。それは、この日の演奏の誠実さと充実の証である。 以下余談。リリアの音楽ホールは初めて訪れた。中規模のサイズ感、高めの天井ながら適度に響きを抑えたウッディな構造と森林を思わせる内装が、たいへん心地よい優れた箱だった。ここで、ガット弦を張った小さい楽団でハイドンの交響曲を演奏したり鑑賞したらどんなに幸福だろう。TCS&OPTを主催する坂本徹さん、8年前に拝聴した時には思わなかったが、今回は「日本のヘレヴェッヘ」みたいな印象を持った。言葉に寄り添った音楽の作り方、タクトよりも体から音楽が溢れてくるところ、ちょっと浮世離れしたカーテンコールの所作などが。
by mamebito
| 2018-11-23 01:12
| コンサートレビュー
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