2018年8月30日(木)19:00~ かなっくホール
Vc.松岡陽平 Pf.松岡優
♪サン=サーンス/ロマンス、組曲
♪フォーレ/エレジー、シシリエンヌ、ロマンス、チェロ・ソナタ第1番
♪サン=サーンス/組曲(管弦楽版)~ガヴォット、白鳥(以上、アンコール)
毎年夏に行われている都響チェロ奏者、松岡陽平さんと息子さんのデュオリサイタル。2013年以来久しぶりに、前半は間に合わず後半から拝聴した。以前も書いたけれど、もう20年近く松岡先生の弾き姿を勝手にお手本の一つにしており、都響を聴きに行く楽しみの中にはお手本を目に焼き付ける意味も多分にあるのだった。
数あるチェロ・ソナタの中で、フォーレの1番、さらにその第1楽章は、最も好きな作品の1つだ。フランスに留学し活躍されている息子さん、最も好きな作曲家を敢えて挙げればフォーレだそうだが、父上も少なからず影響されたのではないだろうか、細部まで意思が通いきった素晴らしい演奏を堪能させていただいた。太くて力強くぶんぶん鳴らすチェロでは、この作品の微細なニュアンスを塗りつぶしてしまう。松岡先生のマットで質感のよい音色がスコアの意図とガッチリ噛み合う時、それはこの作品に求める理想的な瞬間の一つに違いなかった。
自分はこの曲をイッサーリスの録音で聴き馴染んだのだけれど、デュオ松岡の演奏には近い質感を覚えた。他方で、イッサーリスの録音からはある種の厳しさが伝わってきたところ、トレードオフではないけれど、この日のお二人からは優しさが滲みだして聴こえたのは、演奏者の個性によるところか。それは小品のカンタービレでも感じられたことで、お二人がフォーレの作品を愛していることが伝わる演奏に惹かれた。
アンコールは、チェロとピアノのための「組曲」には無い、管弦楽版「組曲」オリジナルのガヴォットを、逆にチェロとピアノ用に編曲した貴重な演奏で。最後はアナウンスなしで、サン=サーンスの「白鳥」を。言わずと知れた演奏機会がたいへん多い名曲だけれど、サン=サーンスとフォーレの関係性と両者への敬愛に満ちたこの日の文脈の中で奏でられると、サロンのお気楽な1曲(動物の謝肉祭)としては片付けられない、愛惜の滲む音楽として迫ってきたのだった。