2018年5月23日(水)19:00~ サントリーホール
パーヴォ・ヤルヴィ+NHK交響楽団
♪ストラヴィンスキー/バレエ音楽「ミューズの神を率いるアポロ」、バレエ音楽「カルタ遊び」、3楽章の交響曲
好きな交響曲を10曲挙げるならば、ストラヴィンスキー「3楽章の交響曲」を間違いなく入れる。交響曲にメッセージや物語性を求めるならば価値を見出しにくい作品かもしれないけれど、構成や色彩や躍動の塩梅が絶妙な、センスの粋を極めた音楽だと思っている。
その「3楽章の交響曲」に、アポロとカルタを合わせるストラヴィンスキー尽くし。オーケストラにとって定番のレパートリーではなく、難易度も高く、しかも集客しやすい人気曲ではない3曲のみで編んだところに、ヤルヴィの高いセンスとN響の自信を垣間見るプログラムだ。
ヤルヴィ+N響のコンビは、3曲の特徴を分かりやすく描き分けた。アポロでは、N響の弦が今までに聴いたことがないほどしなやかで優美。古典ものやロマン派の演奏から、マエストロはタイトで切れの良い弦楽合奏にまとめ上げるのではないかと想像していたが、そのような部分もあるものの、全体に響きが多く角が取れて豊かなサウンドがホールを優しく満たした。踊れる揺らぎではなくコンサート用ではあるのだけれど、ルバートや繊細なニュアンスが豊富なのも好感。メインディッシュの前に、前菜で嬉しい充実を頂いた。
「カルタ遊び」を聴くのは、シャイー+コンセルトヘボウ管の来日公演(2002年11月16日、初台)以来かもしれない。この日の演奏は、スコア指定に従った中編成ゆえか、大人しくスッキリし過ぎて、もうちょっとブラックな表情やえげつない音響を求めたく感じた。カードを切る毎の場面転換やトランプカードが示すキャラクターの描き分けに傾注した演奏であることはよく伝わった。
期待の「3楽章の交響曲」はコンビの面目躍如。引き締まったテンポと張りのあるサウンドを基調にした切れ味のよい演奏。所々で合奏のかみ合わせが万全ではなかったが、2日目には改善されたかもしれない。この作品のスポーティな心地よさや変拍子の切れ味よい爽快感を、高いクオリティで楽しませてもらい、一面の真価をしっかりとアピールした申し分ない演奏だった。
ただ、ヤルヴィはパリ管と来日して演った「ペトルーシュカ」があまりに素晴らしかったので、マエストロが振るストラヴィンスキーに過剰に期待していたのかもしれない。パリ管は、オーケストラが自ら自然と香っていたのだろう。この日のN響も素晴らしかったのだけれど、もっと色彩に敏感で、統制された裡にもそこかしこに歌の要素を見出して、針でつついたら弾けるような賑々しさを潜ませるストラヴィンスキーの方が好みではあった。マエストロ・デュトワの演奏がそうであるように。