2018年4月26日(木)19:00~ サントリーホール
ヘルベルト・ブロムシュテット+NHK交響楽団
♪ベートーヴェン/交響曲第8番、第7番
2016年にバンベルク響と来日し、のべつまくなしヴィブラートのロマンティック路線とは一線を画する、至福のモーツァルトやベートーヴェンを聴かせてくれたブロムシュテット。この日もマエストロは期待を満たしてくれたが、オーケストラについてはN響らしさが両極端に現れる演奏となった。
前半、良くも悪くもN響はコンサバティブなオーケストラだと改めて感じることになった。8番で、マエストロはもっと革新的な表現(時代を超えて普遍的な先進の響き)を目指していた気がするのだけれど、オーケストラのサウンドは懐古的(昔のN響がドイツものをやる時のような)で、なかなかマエストロが手招きする方へ足を踏み出さない感じがした。特にヴァイオリンの統制感は頑なに合奏を守っているように聴こえ、木管は少々教条的な歌い口に聴こえた。また、ティンパニ・トランペット・低弦のリズムやアタックは丸みを帯び、よく言えば平和だが若干平凡であり、ベートーヴェンの鬼才を宿すには至らなかった。木管セクションに不安定な個所があったのももったいなく、総じてコンサバティブなスタンスが守りの演奏に転じてしまったように感じた。
ところが、休憩を挟んだ7番では見違えるような充実した音楽がホールを満たした。気合が入りすぎてか、冒頭の生硬な一音には先が思いやられたものの、曲が進むごとに演奏が噛み合い始める。サウンドは力強くも角が取れて澄み、滋養に満ちて、一音一音のスナップショットだけでも十分に音楽だった。特に第2楽章の導入は深遠でありながらリズムが明瞭で、老巨匠の至芸に身震いした。しかも、効果的にヴィブラートを控えた弦合奏が美しいこと!第3楽章は冗長に感じることが多いところ、何度繰り返してもらっても構わないと思った演奏は過去にいつ聴いただろうか。終楽章は、楽員さんのマエストロや作品への想いが強く湧くものの、情に溺れず、強弱と音型のグラデーションが驚くほど明瞭。展開部の転調でマエストロが下手側に腕をかざすと、14型の低弦群からホールを揺るがす美音が轟いて啓示的ですらあった。そのままフィナーレまで、音楽は熟し続けた。
カーテンコールはいつもご機嫌に振る舞うブロムシュテットさん、この日は会心に近かったのだろうか、私が目にした中でも特に体や表情が豊かに生き生きして見えた。今月の定期客演最終日、Vn女性から赤い花束を受け取るマエストロは誰かのようにキスやハグをねだるはずもなく(笑)。 アプローチや採用楽器・ピッチの嗜好を超えて心揺さぶられる、ベト7の名演奏だった。