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2014年9月7日(日)14:00~ 王子ホール
Vn.原田陽 Pf.長崎麻里香 Vc.小林奈那子 ♪ルクー/ヴァイオリン・ソナタ ♪フォーレ/ヴァイオリン・ソナタ第1番 ♪ブラームス/ピアノ三重奏曲第1番 ♪メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第1番~第2楽章(アンコール) 大好きな音の1つに、ガット弦を張ったチェロの音がある。きっかけは1992年に遡る。前年9月半ばにカザルスホールで行われた、鈴木秀美さんによるバッハ無伴奏チェロ組曲全曲リサイタル。そのLive録音をエアチェックして、子ども心に「このシワシワっとしたおいしい音色は何!?」とびっくりしたのだった。 元々、どういうわけかチェロの音色が好きで、それまではシュタルケルが一番だと思っていたのだけれど、いやいや、ガット弦というものを張ったこういうチェロもいいじゃない!と開眼。ちょうどブリュッヘンやノリントンやアーノンクールが古典派以前の作品をガット的な仕様でガンガン録音していた時代。少なくとも古典派以前の音楽は、総じてガットの音色で刷り込まれたと言って過言ではなかった。 思い出話が長くなった。それから20数年、今や嗜好がひねくれて、ガットを張ればいいというものでもないとか生意気を覚えてしまったわけだけれど、この日のガットを張ったチェロ&ヴァイオリン+バリバリのスタインウェイというコラボレーションは、手放しに耳が喜ぶ絶妙の音色世界に他ならなかった。 前半は、OLC等でもご活躍の原田さんと、フランスで修行された長崎さんのデュオ。5月末に小林さんとのショートトリップをサロンで聴いた時には、繊細なタッチが印象的だった長崎さんが、D274のパワーと王子ホールの音響を得て、真の姿を露にされた印象。丸くてチャーミングなタッチはそのままに、豪快なフォルティッシモや鬼気迫る勢いのアレグロに驚き、ヴィルトゥオーゾでいらっしゃることが明らかに。そのうえ、静寂表現は繊細で瞑想的なものだから、音楽の振幅が大きい。原田さんは、前述したOLCの先入観で古典的な印象を持っていたけれど、ロマンの表現は爽やかに熱く、「青春の汗」といった風情でとても快い。まだ二度目の共演とのことながら、部分部分の息だけでなくゴールイメージがしっかり合致したお二人のように見受けられた。 ゴールイメージという点で、後半のトリオも間違いなく合致していた。三人寄ることで世界観が一段と明確になったと感じたのは自分だけだろうか。冊子に楽器の仕様もピッチも何も書いていない。ご本人達もその辺りで論じられるのは本望ではないと思うけれど、敢えて。バロックではない調整の楽器に裸ガット弦を張り、ピッチは442k周辺で、合わせるピアノはモダンなスタインウェイD274・・・裸ガットでブラームス?でもエンドピンも付いてモダンのテンションなの?ヒストリカル・ピアノならまだしもバリバリのスタインウェイじゃバランス合わないでしょ?そんな声が聞こえてきそうである。ステレオタイプに考えたら、ちょっぴりクレイジーなトリオなのだ。 しかし、三者の音色はしなやかに混ざり合い、バランスを欠くことなどなかった。むしろ、今までトリオという編成で耳にしたことのない、新しい魅力的な色がホールを満たした。この音色世界を端的な言葉に落とせないか、1ヶ月以上考えていたのだけれど、力及ばず。擬音語に託すならば、上述の「シワシワ」に「モリモリ」を掛け合わせた感じだろうか?(苦笑) 特にチェロは、楽器の音色も小林さんの鳴らし方も美味。それは高級レストランで調理された味というよりも、北の大地の栄養だけで大切に育てられた希少野菜を採れ立てで口にしたような自然な味わい・・・。 第1楽章は、ありがちな豊満な響きが削ぎ落とされ、若書きの情熱がストレートに伝わった。第2楽章は、長崎さんのキレのあるタッチと両ガット弦楽器のブリブリとした細かい動きが絡み合い、引き締まった肉感が快い。第3楽章は余情を排し「ブラームスを聴く」ことへの無意識の先入観にハッと気付かされた。終楽章は弦ユニゾンとピアノの渦を巻く様子が印象的。直接音よりも、ホール全体が鳴るように聴こえるアコースティックに包まれ、新感覚のブラームスop.8を体験した。作風は回帰して行くものの書法は先駆だったブラームス、作曲家が求めた響きは当時の再現楽器では時代を遡りすぎで、この日のような仕様と語り方で奏でられた方が本当の姿を現わすのかもしれないと思った。 アンコール、メンデルスゾーンのアンダンテも絶品の音色世界。小林さんが奏でる冒頭のカンタービレは、余情を削ぎ落とし純粋でありしかも豊かで、夢のように美しかった。これは次回、このメンバーでメントリ第1番を演っていただくしかない。
by mamebito
| 2014-10-17 00:27
| コンサートレビュー
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