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2011年11月1日(火)19:00~ サントリーホール
ユーリ・テミルカーノフ+ サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団 Vn.庄司紗矢香 ♪ロッシーニ/歌劇「セビリアの理髪師」序曲 ♪メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲 ♪J.S.バッハ/無伴奏Vnパルティータ第2番~サラバンド(アンコール) ♪ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」 ♪エルガー/エニグマ変奏曲~ニムロッド(アンコール) 期待した高度な音楽的満足が期待通り得られる。なんて幸せなことだろう。イレギュラーなことが当たり前のように続いた2011年春以降の音楽界においてはなおさらのこと。 軽妙洒脱ではないロッシーニからしてこのコンビならではの演奏を満喫。恐らく、スコアは半世紀程前まで主流だった版(カラヤン+POの名盤等でおなじみ、フィルハーモニア版?)を使用。編成はシンバルなし、部分的に臨時記号が無くて半音高かったり低かったりする。そうした昔懐かしさに加え、マエストロは中編成の楽団をふくよかに鳴らすので、“帝政ロシアの栄華”とでも言えそうな独特の味わい深いロッシーニが展開されたのだった。 続くメンデルスゾーン。庄司さんは一段と一般受けしないヴァイオリニストになってきたと感じた、もちろん良い意味で。彼女の受賞歴は華やかだし日本での人気はアイドル的だけれど、その演奏はむしろ地味だと思う。清冽無垢な10代後半から、表現とスケールの深耕を試みた20代前半を経て、現在は虚飾を廃して表現の核心に迫ろうとする演奏家に変貌しつつある、と私は思っている。 メンコンはあまり好んで聴く曲ではないのだけれど、この日の美しいだけではない演奏に認識を改めた。小編成に絞ったロシア名門楽団には、レンブラントの肖像画に覚えるような質実な格調高さが備わる。殊更に歌謡性を表出せず、どこかひなびた抒情が滲み出てくるようだ。そういえば、2002年10月に聴いたボルティモア響との来日公演、テミルカーノフのウェーバーやシューマンやブラームスは驚くほど色気なく快速で、音楽の行間からじんわりと辛口のロマンが滲み出すようだったことを思い出した。 さて、身の丈に合ったバックを得て、庄司さんは伸び伸びと自在に語る。冒頭の有名なメロディ、やたらとロマンティックに歌うことはなく、起承転結の起といった具合に落ち着いて語り始める。カデンツァや第2楽章、耽美に過ぎず時にはちょっときつい音色も使い分け、寄せては引くような旋律の流れを作りあげていく。説明的ではないのに、とても有意だ。この作品が明朗美麗なばかりでなく、けっこうグレーな叙情も備えていたことに気付かせてくれる演奏だった。アンコールのバッハも、上品でありながら、自然な起伏を通して力強い訴求力を感じる見事なものだった。 さらなる白眉は春祭。冒頭Fgソロは余裕綽々、野太く表情に富み、彼らのアプローチを明確に提示する。並笛のごとく軽やかなアルト・フルート、練習番号9からも決して狂気の沙汰ではなく、音楽的な分散和音が美しく流れる。抑制したバスクラが他の管合奏と絶妙に交じり合う様も見事…既にイントロダクションだけで聴き所が満載すぎてとても書ききれない(笑)。 全体的に落ち着いたテンポでしっとりと聴かせる。怪物的スケールや荒々しさで狂乱を演出する浅薄な演奏の対極といってもいいだろう。それは決して大人しいわけではなく、「春の踊り」のたくましさや「大地の踊り」の疾走感など十分に表出されている。例えればデュトワやブーレーズの精緻なアプローチとは異なる形で、彼らと同じく的確に全体俯瞰し抜群のバランス感覚で組み上げた演奏といえるかもしれない。 会場の空気が緩んだ第二部「序奏」から「乙女達の集い」の緩徐部分、描写的過ぎず無味乾燥な音の羅列にも堕ちず、これほど大人びたストーリーで編まれた演奏は聴いたことがないかもしれない。もちろん、一般に私達が期待する所謂ロシア的な美質、野太く叩き切るようなTpや軽々歌うTu、逞しくカッコイイHrの斉奏etcにも事欠かず。特に「生贄の賛美」から「生贄の踊り」のフィナーレに向けては圧巻で、ロシア音楽としての春祭の理想形といって過言ではない名演奏だったのではないだろうか。 そしてアンコールはやはり、エルガー。ただこのニムロッド、過去度々耳にしたアンコールの中でも出色の包容力と黄昏感があり、思わず我を忘れるほど惹かれる演奏だった。マエストロへのソロ・カーテンコールが自然と起ったのもうなずける、充実著しい幕切れだった。
by mamebito
| 2011-11-19 02:28
| コンサートレビュー
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Comments(5)
こんにちは!コメント&TB、ありがとうございます!
実にいい演奏会でした。テミルカーノフとこのオケの蜜月関係をしっかりと感じ取った次第です。まぁそれにしてもあの「春の祭典」は・・・!。 そして庄司さん。まさに私が感じていることを見事に言葉にして頂きました。ありがとうございます?!最近特に、音への執着というか、音楽に対する探究心がどんどん深まっているのを感じます。決して綺麗な音じゃないのに、その音符にその音を使う意味とか、こちらも考えさせられるような、意味深い演奏になっていると思います(決してへんてこ演奏になっているということではなく)。やはり聴き逃せないアーティストであります。 来年はまたカシオーリとのリサイタルが予定されているようです。こりゃまた全国行脚か・・・?!(笑)。 また是非会場でお会いしましょう!
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はじめまして!会場では短い間でしたが、楽しいお話をありがとうございました!
私の方は、ハルサイの印象が強すぎて、うっかり庄司さんの演奏のことを書き忘れるくらいでした。勢いで、横浜公演も行ってしまいました。 「ロシア音楽としての春祭の理想型」、そうですね~。ともかく、「芸術」を堪能した!という満腹感一杯で会場を後にしました。 これからも、宜しくお願いします。ちなみに、私のブログにリンクを貼らせていただいても良いでしょうか?
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by
mamebito at 2011-11-28 00:23
>minaminaさま
お返事遅くなりましてすみません。こちらにもTBいただきありがとうございました! 庄司さんについてはminaminaさまの愛情伝わる言葉に勝るものはありません。音への執着、音楽への探究心、まさにそのとおりですね。純真で美しい庄司さんだけでなくて、彼女の音楽家としての成長に私達もしっかりついていかないとですね! 来年の情報、ありがとうございます。このデュオ、本当に気に入ったんです。モーツァルトなんかも聴いてみたいなあ…楽しみですね!
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mamebito at 2011-11-28 00:27
>武蔵野の風さま
コメントいただきありがとうございました!アップ前に11/1+6のエントリーを拝見したのですが、こちらからご挨拶が遅れてしまいました。。 blogの方でも、どうぞよろしくお願いいたします。ぜひリンクいただけると嬉しいです。こちらもお気に入りblogに武蔵野の風さまを登録させていただきます。 横浜公演のチャイ5のご感想、いい演奏だったんだろうなあとじっくり拝読しました。彼らの同曲は数年前にNHK音楽祭で聴いたのですが、NHK-Hの3F席で音がイマイチだったのとオケに思わぬミスがあったりして万全ではなかったんです。今年の来日では本来の彼らのチャイ5が披露されたんですね。
とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
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