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2014年4月10日(木)19:00~ サントリーホール
Vn.庄司紗矢香 Pf.メナヘム・プレスラー ♪モーツァルト/ヴァイオリン・ソナタ K.454 ♪シューベルト/ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲、ヴァイオリン・ソナタ第1番 ♪ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」 ~以下、アンコール~ ♪ドビュッシー/亜麻色の髪の乙女(デュオ) ♪ショパン/ノクターン第20番(ピアノ) ♪ブラームス/愛のワルツ(デュオ) ♪ショパン/マズルカ op.17-4(ピアノ) 庄司さんのデュオ・パートナー、ゴラン氏→小菅優さん→カシオーリ君と、どんどん内省的な演奏家と組んでいくなあと思っていたら、ついにプレスラー御大と共演なさるとは。このお二人で既に欧州ツアーを重ね、そういう向きを愛する各国の愛好家を唸らせてきたとか。そんな二人を聴く箱としては大きすぎると思われるサントリーながら、この日は舞台の一音一音に耳を澄まそうとする雰囲気で満たされ、一回り小さなホールのように空間が親密に感じられた。 心奪われたのは後半プログラムだった。シューベルトのソナタは、庄司さんのヴァイオリンが繊細を極めた。純度の高い音色の中で、表情がころころ微細に移ろい行く様はちょっと聴いたことのないグラデーションのレベル。かといって、箱庭的にみみっちいわけではなく、舞台後方RAまで包み込むかのうように響きに存在感があった。思うに、庄司さんのシルエットは贅肉が落ちて華奢でいらっしゃるけれど、そういうフィジカルとは別次元で音楽表現を追究しているのではないだろうか。細い/太いとか、大きい/小さいとは違う尺度、例えば深い/浅いとか張る/緩むみたいなことを、より全面的に意識して音楽を作っていらっしゃるような。その結果、彼女の演奏に接すると、独自プロトコルで耳が気付かぬうちにハートと通信されてしまったような、ストレートな琴線の揺れ方がするのではないか、などと想像しながら聴いた。 そのような表現で奏でられた「雨の歌」の、はかなくも伸びやかで瑞々しいことと言ったら!冒頭を若干ハスキーな弱音で奏でた後、徐々に艶やかな音色で音楽に精彩を増していく。肉食的な推進力や、力強さや、華やぎは、はっきり言って無い。ただ、この作品にそのような芳香は余計なのかもしれない。庄司さんの旋律さばきはとにかく洗練されて、かといって耽美に陥らず、例えば小節をまたぐさいの律儀さなどにドイツ風の質実な語法がしっかり感じられたりする。その内側から、微かな幸福感や切なさが鼻腔をくすぐるように漂ってくるのだった。 ところで、パートナーのプレスラー氏、かなりのご高齢ではありながら、その丸みを帯びつつもクリスタルな独特のタッチは健在。しかしながら、演奏を作るという点では、思い描いていることがフィジカルに実現しにくくなってきた様子を否めなかった。それはミスタッチが多いということだけではない。自分で敷いたテンポを追いきれなくなってよたったり、それを庄司さんが左斜め後ろに意識を寄せてあわせたりグイッと引っ張って流れに引き戻してあげたり・・・という場面が少なからず見受けられた。その庄司さんの頼もしい姿は、大好きなおじいちゃんを守りながら(最後の)思い出となる共演を形にしようとする孫のようで、健気で美しくはあったのだけれど。 いや、今回のツアーに関するSNSの激賞を見るに、自分はまた見なくてよいものを見て、聴かなくてよいものを聴いてしまったのかもしれないという気もする。それは演奏の舞台裏、レストランで言えば厨房を覗いてしまったのではないかということ。お二人は、ホール後方ではなく、前方で溶け合い広がっていく音楽を作っていたのだと思う。プレスラー氏は、そのために必然となる箇所に注力して奏でていたわけで、手元や舞台後方に瑕や抜け漏れが分かってしまうことは承知だったのかもしれない。 ところが、である。アンコールは上述のとおり4曲披露されたのだけれど、ここで奏でたプレスラー氏のショパン2曲は別世界の演奏だったのだ。もちろん、フィジカルな力強さやタッチのキレはないのだけれど、完全に音楽を手の内にした者だけが為し得る表現といったところ。いや、それどころか、誤解を恐れずに敢えて言うならば、彼岸に半分足を突っ込んだような、デモーニッシュなほどに神々しい美しさを奏でていたのだった。これは自分のボキャブラリーではとても表せない。ただただ、あまりに美しくて背筋がぞっとした。おじいちゃんのソロ・ピアノを舞台上の椅子で足を組み聴き入る庄司さんの姿が、良い意味で現実につなぎとめてくれたような気がした。 公演にはNHKのマイクとカメラが入った。アンコールも含めたこのマジカルな音楽が、電波に乗ってうまく再現されるとよいのだけれど。
by mamebito
| 2014-05-18 22:08
| コンサートレビュー
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